Webサイトの開発において、CSSの構造や使われ方を正しく把握することは、見た目の美しさだけでなくメンテナンス性やパフォーマンスにも深く関わります。とても重要……とはいえ、複雑なCSSコードの中から無駄を見つけたり、色やフォントの使いすぎを手作業で確認したりするのは、なかなか骨が折れる作業です。
そんなときに頼れるツールが、Chrome DevTools に搭載されている「CSS Overview」パネルです。
これは、ページ内で使われているスタイル情報を自動で集計・整理してくれるもので、2025年6月の Chrome 138 では正式に改善が加えられ、より実用的になりました。
こういったツールが無かったころは開発者が目視で確認していたアレやコレ、わずか数クリックで「見える化」されるため、デザインの見直しやコードの整理に非常に役立ちます。
主な機能は?
使用されている色の一覧表示
背景色・テキスト色・ボーダー色など、ページ内で使われているカラーが種類ごとに集計されます。
これにより、似たような色が複数存在していないか、色の使い方に偏りがないかを客観的に確認することができます。
フォントの種類と使用状況の確認
使われているフォントファミリー、サイズ、ウェイトなどが一覧で表示されます。
「本来のフォントが反映されていない」「不必要に多くのサイズが使われている」などの問題に気づくきっかけになります。
未使用スタイルの検出
CSSファイル内に存在しているものの、実際のHTMLに適用されていないプロパティ(未使用宣言)が検出されます。
これは不要なスタイルの削除や、CSSの整理・軽量化に非常に役立ちます。
メディアクエリの可視化
使用されているすべてのメディアクエリが一覧表示されます。
ブレークポイントの過不足、冗長な記述、抜け漏れの確認など、レスポンシブ設計の見直しに役立ちます。
どうやって使うの?
使い方は非常にシンプルです。
- Chromeで任意のWebページを開き、右クリックから「検証」を選択(または F12 キーを押下)して DevTools を開きます。
- DevTools の右上にあるメニュー(縦に並んだ三点リーダー)をクリックし、「More tools」から「CSS Overview」を選びます。
- 表示されたパネル内の「Capture Overview」ボタンをクリックすると、分析が始まります。
たったこれだけで、ページ全体のスタイルに関する情報が一覧表示されます。
実際のユースケース
CSS Overviewパネルで単に情報を眺めるだけでは、その恩恵を受けられません。開発や改善の現場で「具体的にどう役立つか」が重要です。どんな場面で活用できるのか、よくある3つのシーンで見てみましょう。
色の使い過ぎを見直したいとき
Webページを開発していると、少しずつ色の種類が増えてしまいがちです。ボタンの青、見出しの青、背景の青といった具合に、微妙に違う青色を複数使っていると、全体の統一感が損なわれるだけでなく、保守性も低下します。
たとえばボタンの背景色とカードのヘッダー背景色で、ほとんど同じ青を使っているつもりでも、実は微妙に違っていた――というケースです。
CSS Overviewパネルで色の一覧を見ると、#0066cc と #0070cc が別々にカウントされていることに気づきます。視覚的にも似ている場合は、どちらかに統一してしまっても問題ないことが多く、結果としてデザインの一貫性が増します。
/* 色がバラバラの状態 */
.btn-primary {
background-color: #0066cc;
}
.card-header {
background-color: #0070cc;
}
/* 酷似しているもの1色に統一 */
.btn-primary,
.card-header {
background-color: #0066cc;
}
CSS Overview を使うと、使われている背景色やテキスト色の一覧と、それぞれの使用回数が表示されます。この情報を見ながら、ほとんど違いのない複数の色が使われていることに気づいた場合、それらを1つに統一することで、デザインもコードもすっきりします。
古いスタイルの整理・削除
長く運用されているWebサイトでは、すでに使われていないクラスやプロパティがCSSに残ってしまっていることがあります。たとえば、リニューアル前のコンポーネントに使っていたスタイルが、それが必要なくなった今でもCSS内に存在している、といったような状況です。
CSS Overview はそうした「未使用のスタイル」を検出してくれるため、削除しても問題がないかどうかの判断がしやすくなります。安心してCSSの整理を進めることができ、CSSファイルの無駄が減ることでファイルサイズの軽量化やメンテナンスの効率化にもつながります。
レスポンシブ設計の確認
スマートフォンやタブレット、PCなど、異なる画面サイズへの対応は今や当たり前ですが、どのサイズにどう対応しているのかを後から見返すのは意外と大変です。
CSS Overview では、使用されているメディアクエリをすべて一覧表示してくれるため、「どのブレークポイントが定義されているか」「想定していたサイズ帯が抜けていないか」などを簡単に確認できます。必要に応じて、新たなメディアクエリを追加する判断もしやすくなります。
便利だけど鵜呑みにしてはいけない
CSS Overviewは非常に便利なツールですが、「未使用」と表示されても、その結果を鵜呑みにして「はい、削除」と実行してしまうのは危険です。
実際はJavaScriptで動的に追加されるクラスだった、という可能性もあります。そのため、削除や変更を行う前には、常に確認とテストを行うことが大切です。
開発後の“振り返り”にぴったりなツール
CSS Overview パネルは、CSSの設計・改善をサポートしてくれる非常に実用的なツールです。
特に、まだCSSに不慣れな方や、初めてチーム開発を経験する方にとっては、「自分が書いたCSSがどう全体に影響しているのか」を客観的に知る手段として大いに役立ちます。
コードを書き終えたあとに、ちょっとこのパネルを開いてみるだけでも、多くの発見があります。見た目を整えるだけでなく、スタイル設計の根拠や理由が見えるようになると、CSSの理解も深まっていくはずです。
ぜひ、日々の開発の中で取り入れてみてください。